税務署は実力の世界?


  税務署とプロ野球の世界はよく似ています。
  プロ野球は、高卒、大卒、社会人からプロ入りし、学歴は関係なく、実力の世界です。
税務署も、高卒、大卒、社会人採用があり、採用後は、まぁ実力の世界です。

  大卒が幹部候補生として採用される民間企業では、高卒が大卒の上司になるというのはなかなか大変だと思います。

  学生の時アルバイトをしていた地方の新聞社では、新聞記者は大卒、高卒は写植等の職人的な仕事に限られ、管理職はいませんでした。

  これに対して、税務署は、高卒の方が圧倒的に偉くなっています。
  令和1年7月の職員録で東京局84署の署長の中で期別が確認できる79署の署長の内、高卒の採用である普通科が47名、大卒の採用の専科が32名と高卒の方が偉くなっています。
  数年前はもっと高卒の署長の割合が多かったように思います。


  税務署の採用試験は、税務職員採用試験(高卒程度)国税専門家採用試験(大卒程度)、と従来からある採用試験と、現在は社会人枠として国税庁経験者採用試験があります。

  高卒は、普通科生として、1年間全寮制で税務職員に必要な簿記財表、税法、一般常識等を身につけさせられます。普通科における成績もその後の出世に影響がでると言われており、必死に勉強します。
  普通科生はその後、実務経験を積んだ後、本科試験という幹部候補生の試験に合格すれば、さらに、1年間の専門的な教育を受けることができます。

  一方、大卒は、国税専門官採用試験に合格し採用されれば、4月~6月の3カ月間、普通科と同じように簿記財表、税法の研修を受けますが、自由な大学生活を謳歌しているので、たった3か月では、学生気分が抜け切れない者が多くいます。私もそうでしたが...。

  浪人しない者が署に配属されるのが22歳。中には27歳なんていう者もいます。
  同じ22歳でも一年間みっちり税務職員としての教育を受け、さらに実務を3年間経験した普通科の者の方がどうしても実務では優秀に見えます。

  そういう若い普通科生が将来有望な普通科の先輩に運よく目を掛けられ(運も実力のうち!)、さらにステップアップするという流れがずっと続いてきました。


  能力があったのに大学に行かなかった若しくは行けなかった普通科の方も多く、そういう方が人事を握るとどうしても普通科の苦労人を好む傾向があるのは否定できないと思います。

  30年ぐらい前、大卒は嫌いと平気で公言していた局のお偉いさんがいて、それを聞いて、国税専門官として採用された身としては、トホホという感じでした。

  その結果、商業高校出身者が、難関大卒の年上の者の上司になるケースが良くあります。「〇〇大卒の癖に仕事ができない。」等と他の職員に言いふらす馬鹿な上司もいました。  

  出世コースを歩んだ高卒に対し、歩めなかった優秀な大学を卒業した者がやる気をなくしていることも多く見受けられます。

「そんなに頑張っても無駄だよ」という大卒の先輩もたくさんいらっしゃいました。

  まぁ、基本的に税務署の仕事は、英語が必要な国際課税とか、上場企業の調査等の仕事以外は、国語と簿記ができれば、概ね勤まりますからね。

  ただ、ある地位以上になった時には、大卒のその教養だったり、発想の柔軟性や判断力が生かせる場面が多くなると経験上感じます。

  私の場合、22歳で署に配属され、調査の仕事はまずまずこなしていたものの、午後5時30分には、飲み屋か雀荘、時々ディスコ(流行ってました)の日々。

  一方、同じ部署に先に配属されていた普通科生がK君。一つ年下の21歳で、普通科でも優等賞に輝き、当時、夜間学校に通い、真面目に仕事にも打ち込んでいました。

  K君はその後、本科試験にも合格し、長いこと国税庁に勤務し、偉くなりました。

 仕事はまぁまぁできても5時過ぎには遊びに行ってる私とK君、どちらか一人を選ぶとなったら、私でもK君を選ぶかな。

 もう一人の別の部署の普通科生は、2つ年下にもかかわらず、いきなり私を「田口」と呼び捨て。( ;∀;)

 税務の世界に入ったのは自分の方が早いので先輩という理屈らしく、そういう尖ったところが、上には頼もしく思われたらしく、パワハラ気味という噂はあったもののこちらもどんどん偉くなっていきました。

 この方に出世の道を閉ざされた大卒も多いのかなと思います。

署の総務課にいた時に署長室の書棚にとても古い署長会議資料があり、署長から読ませてもらったら、「国税専門官にやる気を出させる方策」等という議題の年がありました。問題の所在としては、大卒を鼻にかけ、働かない、調査ができない、幹部になれると勘違いしている、組織になじんでいない者がいる、という内容だったと記憶しています。
 私が税務署に入る少し前の議題だったのですが、そこで提案されていたのが、「大卒のプライドをくすぐる」「幹部候補と持ち上げる」「高卒とうまく競争させる」とか、愚にもつかない意見でした。こんな議論がされるほど準キャリア採用という意識が当時の専科採用者にはあったのです。
 確かにその当時の国税専門官採用試験の募集要項には、税務署の幹部候補生の採用などという一文が入っていました。
 それでてっきり、幹部になれるかと思ったら、多くの方が次の異動でも、普通に税務署に配属され、結局、普通科と競わされることになり、「話が違う!」と辞めた方もいたようです。
その後、募集要項からは、幹部候補生という言葉はなくなりました。

 まぁ、考えてみれば、何百人と採用された者がみんな幹部になれるわけはないですよね。

 普通科も専科も同じ税務職員なので、学歴ではなく実力(運も含む)で勝負ということですね。(^^♪

ただ、難関大学卒の者を冷遇した結果、難関大学からの税務署の志望者は減り(好景気の影響ももちろんあるでしょうが)、最近は、聞いたこともないような大学からの採用者が増えるなど専科生のレベル低下を嘆く声も耳にします。

 税務行政の未来を考えると、高卒、大卒にかかわらず、見かけの元気さとか、上の顔色をうかがうばかりではない本当の意味での実力者が登用され、次代を担う優秀な職員が増えることを願うばかりです。

 
(2020.3.22)

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