難問Q&A

1 アーンアウト条項付きの譲渡の申告の方法

【問1】私は、製造業の小さな会社を経営しています。小さな会社ですが、技術力があり、特許申請中の技術もあります。この度、大手の会社から、吸収合併したいという話がありました。
その条件ですが、私の保有株式を当初は、1億円で買い取るが、私や従業員がそのまま会社にとどまり、3年間ある一定の収益を上げた場合は、さらに譲渡代金の追加払いとして,毎年譲渡代金の追加支払が行われ、最高2億円支払われるという条件です。
こういう条件の場合、今年の申告で譲渡収入をいくらと申告すべきでしょうか?
 

【答1】
ご質問のように、持ち株を当初1億円で売るけれども、その株式の譲渡人である会社経営者がそのまま会社に残り、収益が上がった場合は、さらに譲渡代金が2億円追加で支払われるというような条件、このような条件が付いた譲渡契約は「アーンアウト条項付きの譲渡契約」と呼ばれています。

 近年、M&A等で、創業者等から株式を購入する際に、株式等を手放した創業者等のやる気を喚起するために利用されている手法です。

 ご質問の場合は、特許権となった場合を見越しての条件とも考えられます。  

 こういったケースの場合、ご質問のように譲渡代金を1億円で譲渡所得と申告するのか、後払いも含めた3億で申告するのか悩みます。

 法人の場合は、益金に算入する時期は問題となりますが、税率は年度によってそれほど差がないので、税額的にはあまり差がありません。

 一方、個人の場合は、当初受け取る1億円については、非上場株式の分離課税に該当するとしても、一定の収益が達成できた場合に受け取る最高2億円については、株式譲渡収入にあたるのか、総合所得の給与所得か雑所得になるかで大きく税額が変わります。

株式の譲渡なら譲渡益に対して所得税と住民税合わせて20%の税額となりますが、総合所得になると住民税を含めると15%~55%と累進課税となります。

課税方法は、次の3通りが考えられます。

① 3億円で譲渡所得を申告し、最終的にもらえる金額が確定した際、当初にさかのぼって更正の請求書を提出する。

② 1億円で譲渡所得で申告し、追加支給の都度、当初の年分にさかのぼって修正申告を提出する(譲渡所得の修正)。

③ 1億円で譲渡所得で申告し、追加払いについては、その支払いを受けた年分に雑所得若しくは給与所得として申告する。

追加払いがかなり確実な場合や実質的には分割払い等のようなケースでは、①のように譲渡所得で申告すべきであると思うのですが、確実性が低い場合、つまり譲渡人の頑張りや特許権が承認される等の要因による部分が多い場合は、②のように後払いの金額をもらった都度、修正申告を提出するか、③のように譲渡所得とは切り離した所得と考えることになると思います。

 ②で申告すべきと言い切っている税理士先生もいらっしゃいますが、私が現職の税務署の調査官だったら、後払いの分はインセンティブ報酬と考えて③の処理を検討すると思います。

アーンアウト条項付きの譲渡には、追加払いの条件ばかりではなく、減額をうたっている契約もあるのでややこしいです。

 いずれにしろ、契約内容を吟味してケースバイケースで処理することになります。

 相談官時代だったら、税務署で個別事案として質疑を上げてくださいというしかない難問です。

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