難問Q&A

2 お捻りの課税

【問2】私は、演歌歌手ですが、今年は主に温泉地などの観光地での興行収入により生活しています。
興行主からは、出演料をもらっていますが、それ以外に、客席からのいわゆるお捻り収入が大事な収入源です。
お捻り収入については、着物に直接入れてもらったり、舞台に投げ込んでもらったりしていますが、このお捻り収入は、事業所得の収入になるのでしょうか、収入になる場合消費税の対象になりますか。
 

【答2】
   バブルのころにお札でできた首飾りを客席から演歌歌手にかけてあげるというようなシーンを見たことがあります。

 あのお札の首飾りの課税がどうなるかという質問ですね。
 興行主がお捻りの類も含めて回収し、その中から演歌歌手に分配するなら、いったん会社の収入になり、そこから報酬を受け取るという形になり、分配されたお金は事業収入になります。
 ご質問のようにお捻りをあなたが直接受け取る場合に事業上の収入になるのか、贈与になるのか実は判断が難しいのです。

 国税庁のHPの消費税の質疑応答事例に「車の運転手や女中さんに渡すチップが課税仕入にあたるか」という質疑があります。
 
 結論としては、役務の提供の対価の支払とは別に支出するもので対価性がないので、課税仕入に該当しないという回答になっています。
 対価性という概念もわかりづらいのですが、ようはあるサービスを提供したり、物を売ったりした場合には、その分に見合うお金(対価)を請求し、受け取ることにより清算されます。このような取引を対価性のある取引といいます。
 
 運転手や女中さんへのチップはすでに正規料金を支払った後の(つまり対価を支払った後の)金額の支払いなので対価性のない取引であるから消費税の課税仕入には当たらないという回答です。
 この消費税の質疑応答を根拠に対価性がないから贈与だと主張する税理士さんもいます。
 これに対し私は、その仕事との関係性に注目し、運転手さんと女中さんの雑収入という風に考える方が自然と考えます。つまり贈与ではなく、所得税の対象となる雑収入ということですね。

   お捻りというか、ご祝儀について、消費税の質疑ではなく、所得税関係で、昭和34年に出されたお相撲さんへの課税の法令解釈通達があります。
 この法令解釈通達では
   場所・巡業の収入 事業所得
   後援会からの金品 一時所得
   法人からの祝儀  一時所得
   個人からの祝儀  贈与(贈与税対象)
   という内容で、個人からのご祝儀は贈与とはっきり回答しています。

 このお相撲さんへの課税の通達によれば、演歌歌手であるあなたが受け取るお捻りが個人からの祝儀であるなら、贈与税になるのではということになります。
 ただ、私が調査担当者だったら、上記の運転手さんとか女中さんのチップと同様に、あなたが受け取るお捻りは、演歌歌手という仕事柄、職業として行った興行において付随的に受け取った収入であり事業上の収入になると判断すると思います。

 お相撲さんが谷町から受け取るご祝儀とは違い、興行において、芸の披露に伴い、受け取る対価で、事業所得との関連性が高いと見ますが、いかがでしょうか?
 実際、ホストクラブのホストの調査で客からの貢物を事業所得で課税したり、噺家さんの襲名披露のご祝儀が事業所得で課税されたり、所得税の調査の現場では、贈与税ではなく、事業上の雑所得として課税されているケースが多いような気もします。

 現在税理士ですので、お捻りは、贈与であるとして、110万円までは課税されないという立場をとっていますが…。
 結局は、事案ごとの事実認定がどうなるかというグレーゾーンで実務は処理されているような気がします。

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