難問Q&A

3 相続後に路線価以下で譲渡した土地の相続税の課税価額について

【問3】 父が10年前に亡くなっているのですが、今年2月に母親が亡くなりました。相続人は、私と弟の二人です。
母は父から相続した都心の戸建てに住んでおり、今回その戸建てを兄弟で半分ずつ相続したのですが、隣にある会社から社員寮にしたいとの申し出があり譲渡することになりました。
 路線価による評価額は1億3千万円なのですが、今回の譲渡の相手先からの提示額は1億円ちょうどです。
 近隣の不動産業者にも当初、売買を頼んだのですが、実勢価格としては1億円前後ということでした。
 相続期限の12月までには、譲渡する予定ですが、その場合、この戸建ての相続税評価額は1億円で良いのでしょうか。
 また、相続税の申告期限を超えてから譲渡契約が締結した場合には、更正の請求を出せば減額が認められますか。
 

【答3】
 路線価による評価額と実際に譲渡された金額に差がある場合に、譲渡価額を相続税の評価額とすることができるかという質問ですね。

 相続税法第22条では、「当該財産の取得の時における時価…」と相続税における財産評価の原則が規定されています。つまり「相続で取得した場合は相続時の時価」で評価するということです。 

 ただ、時価というのがなかなか難しいので、相続税を評価するために評価通達というものが定められています。 

 この評価通達11において、土地については、路線価方式又は路線価がない場合は倍率方式により評価すると規定されています。 

 つまり土地は、税務署が算定した路線価か倍率により評価するとなっています。

   例外として、評価通達6において「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と規定されています。

 近年、建物が固定資産税評価額で評価されることに着目して、死亡間際に、超高層マンションを購入して、相続税を安くするという節税方法がはやっていましたが、税務調査においてこの評価通達6を適用して、固定資産税評価額ではなく不動産鑑定評価で評価して更正処分を行った事例があります。令和元年8月27日東京地裁判決では、国側勝訴となっています。

 ところで、路線価及び評価倍率は、毎年1月1日を評価基準日として、公示価格、売買実例価額、不動産鑑定士等による鑑定評価額、精通者意見価格等を勘案して算定されますが、公示価格の概ね80%になるように調整されています。

 年度当初の公示時価の80%で評価しているので、その年中に時価が20%以上下落しない限り、相続税評価額が時価を上回ることはないことになります。

 ただ、バブル崩壊の平成3年以後の何年間かは、その年の1月1日が最高値で時価が大きく下がってしまい、路線価での評価額が時価を大きく超えるケースがありました。

 このため、相続の申告までに譲渡をした場合には、その譲渡価額を相続税評価額として取り扱ってもよい、という事務連絡が平成4年に出されています。

 この事務連絡が出されてから、相続税申告期限前までに実際に正当な売買で相続税評価額以下で譲渡された場合は、その価額が相続税第22条の「相続時の時価」として実務においては取り扱われるようになっています。

 この場合、譲渡価額を相続税評価額とできる前提条件として

 ① 相続開始時と売却時期に期間的なズレがあまりないこと、

 ② 売り急いだために実勢価額を下回ったなどの事情がないこと

 ③ 売却先が親族など特殊関係者でないこと

 例えば、兄弟で共有名義で保有するより、いっそのこと現金化してしまおうなどと売り急ぐ場合等は、足元を見られ買いたたかれることも多いです。

このようなケースの場合は、実際の時価ではないとみなされて、譲渡価額での評価を否認される恐れがあるということになります。

  

 ところで、ご質問の場合は、実勢価格での譲渡ということなので、譲渡価額である1億円での申告が認められると思います。

 相続税申告期限を過ぎても、上記①相続開始時と売却時期に期間的なズレがあまりないと認められる場合に限り、更正の請求でも認められると考えます。

 ただ、この期間的なズレがどのぐらいの期間なのか難しいです。

 借地権のケースですが、相続してから2年ぐらいで経ってから譲渡したら、その譲渡価額が相続税評価額を大きく下回っていたので、当初の相続税評価額は高すぎるという更正の請求を出したけれど、税務署に認められなかったという相談を受けたことがあります。知り合いの税理士からの相談でした。

 税務署の主張は、相続から2年経過しており、相続時とは期間的にズレており、実際の譲渡価額が下がったのは、底地権者等との関係性など時価評価とは関係のない要因が主であるというものでした。

 審判所で争うことも可能だけれど、不動産鑑定士による鑑定評価などの追加費用なども掛かると説明したら、納税者の方がもったいないということで結局、異議申し立てはされませんでした。

 東京23区の借地権の相続税評価額は、更地価格の相続税評価額の6割か7割と路線価で評価されています。例えば、更地で1億円の土地なら借地権割合が6割の地域だと借地権が6千万で底地権は4千万と評価されます。しかし、実際は、底地権者である土地所有者と地代の額でもめていたりして、いざ借地権付の物件を売ろうとすると相続税評価額の5割(つまり、上記の例だと3000万円)なんていうケースもあるようです。

 そもそも、地域によって借地権割合が一定ということはありえないと思います。

 相続を機に譲渡して相続税の節税を図るというのも一つの手かもしれませんが、その時価が適正か判断が難しいです。

 最近の裁判事例などを見るとこんな風に述べられており、まぁこれが標準的な考え方かと思います。

 「財産評価基本通達に定められた評価方法により、画一的に財産の評価を行なうことは、税負担の公平、効率的な租税行政の実現という観点からみて合理的であり、これを形式的にすべての納税者に適用して財産の評価を行なうことは、一般的には、税務負担の実質的な公平をも実現し、租税平等原則にかなうものであり、財産評価基本通達に定める評価方式によらないことが正当として是認されるような特別の事情がある場合に限り、他の合理的な評価方式によることが許されると解すべきである そして、財産評価基本通達に定める路線価方式による評価方法は、実勢価格を相当程度性格に反映しており、基本的に合理性を有するものということができ、これによらないことが正当として是認されるような特別な事情がない限り、路線価方式により評価すべきである。」(平21. 2.25 大裁(諸)平20-52)

 「これによらないことが正当として是認されるような特別な事情」にあたるかが鍵ということになりますね。

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