1不動産管理法人の設立
【問1】不動産管理会社設立による節税のメリットとデメリットを教えてください。 |
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【答1】
不動産管理会社と言っても、会社では物件を持たずに、ただ単に、個人が所有している賃貸物件の管理(清掃、家賃の取立等)のみを取り扱う会社と実際に会社名義で賃貸物件を所有する会社の2種類がありますが、いずれも以下のメリットデメリットがあります。
不動産管理会社を設立する6つのメリット
1 不動産所得を法人と個人に分散して節税
個人が支払う所得税は、所得が多くなれば税率が上がる累進課税という制度になっています。税率は復興特別所得税も考慮すると5.105%~45.945%。その他、住民税が均等税率10%で課されます。最高税率の課税所得4,000万円以上の場合45.945%で住民税10%もプラスされ,何と55.945%の税金がかかります。
一方、法人税はどんなに法人所得が増えても、地方税も含めた実効税率は36%程度です。また,資本金1億円以下の中小企業の場合は800万円以下の所得についての法人税率は15%(2019年4月以降は、19%)なので、法人所得は800万円以下になるように役員報酬を払い、所得の分散を図ることにより、所得税と法人税の税率を抑え、トータルの税金を安くすることができます。(節税が行き過ぎると同族会社の行為否認規定で是正される場合があります。)
2 給与所得控除の適用で課税対象額を減らすことが可能
不動産管理会社を設立すると会社から役員報酬(つまり給与)を受け取ることができます。他に給与所得がない場合は、給与所得控除を受けることができ、課税所得を減らすことができます。
例えば月50万円の役員報酬とした場合、給与収入600万円に対し、給与所得控除は、174万円で課税の対象になる額は426万円となります。給与所得控除額の174万円には税金がかかりません。
3 個人では経費算入できない費用の計上
個人の不動産所得の計算では経費で落ちない次の支出が経費で落ちます。
・役員の定期保険や医療保険等の保険料
会社として加入した場合、損金で落とすことができます。
・小規模企業共済(掛金の限度は7万円で全額経費に成り、役員が退職時には退職金として扱える)
個人事業主の場合は、全額が所得控除になりますが、事業税での節税がありません。
・家族従業員への給与
個人の場合は事業に専従していなくては支給できませんが法人の場合は、労働の対価として適正な
金額なら専従していなくても認められます。
・役員退職金の計上
役員が退職するときに退職金の支給が可能となります。
4 その他税法上のメリット
① 青色申告の損失の繰越控除
賃貸物件を購入して、貸付けた場合、初年度は登記費用、不動産取得税等がかかり赤字になることがありますが、青色申告の個人及び法人は、その赤字を繰り越すことが出来ます。これを青色欠損金の繰越控除と言います。赤字を繰り越す事によって、次年度以降の所得と相殺することが可能となります。このため、税金が安くなりますが、この赤字の繰越が個人だと3年、法人だと9年間利用することができます。
② 減価償却
会社が賃貸物件を所有する場合、建物等の取得費を減価償却することになります。この場合、個人所
有の物件の減価償却費は強制償却となっており、償却額を調整することが出来ません。一方、会社の場合は任意償却となっており、その年度の償却可能限度額の範囲内で自由に、所得金額を調整することができます。
5 将来の相続の発生に備えて相続税の節税と遺産分割の対策ができる
・所得分散による相続財産の増加防止
・会社が賃貸物件を所有する場合、相続税の評価はその会社の株価を基にした価額になり、土地等を個人がそのまま所有するより相続税の評価額が低くなります。
・また、遺産分割も土地の分割ではなく株式の分割となり、手続きが楽になります。
・納税資金の準備
*相続の際の効果については、別に解説します。
6 信用力の向上
節税とは直接関係ありませんが、不動産管理会社という法人格を持つことで、厳格な会計処理の適用や資金管理が求められる事から、個人事業主よりも社会的な信用力が増し、金融機関からの資金調達能力の向上も見込まれます。
法人化の4つのデメリット
1 法人設立の費用
法人設立には諸々の費用がかかります。設立に直接必要な費用だけで、株式会社の場合約24万円、合同会社の場合約10万円かかります。その他に司法書士に頼めば司法書士への報酬もかかります。
2 赤字でも税金が最低7万円かかる
法人には、赤字であっても、地方税の均等割が最低7万円かかります。
3 税理士等への報酬
不動産管理会社設立のメリットを享受するためには、厳格な会計処理の適用により作成された帳簿も必要ですし、法人税等の申告書作成、役員報酬の適正額の決定など、税金に明るい税理士の先生等への報酬も必要です。
4 土地等の譲渡の際は税額が多くなる場合もある
土地等について将来的に譲渡を考えている場合、次のデメリットが考えられます。
① 所有期間5年以上の土地等の譲渡所得に対しては所得税において、利益に対して所得税15%住民
税5%の合わせて20%の分離課税の軽減税率が適用されます。所有者が会社の場合は、この軽減税率
がありません。
② 居住用の住宅を個人が譲渡した場合、利益から3,000万円までの特別控除が認められていますが、
会社所有の場合認められていません。