不動産Q&A

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  • 8 財産分与の課税

    【問8】借地権付建物を所有していますが、この度、私の浮気が原因で、妻と離婚することになり、慰謝料と財産分与分としてこの建物を妻に渡して、裸一貫で出直すつもりですが、税法上問題はありますか。また、妻に贈与税はかかりませんか。
     

    【答8】財産分与で妻に、自分が所有する借地権付建物を渡した場合、普通は、財産をもらう奥様には何らかの課税があるだろうけども、財産を差し出したあなたには課税されるはずはないと思いますよね。
     ところが、実際は、奥様には課税されず、あなたに所得税等が課税されます。


     まず奥様については、相続税と贈与についての取扱いを定めている[相続税の基本通達9-8]において、「婚姻の取消し又は離婚による財産の分与によって取得した財産については、贈与により取得した財産とはならないのであるから留意する。」と書かれており、贈与税はかかりません。財産の分与にしては、高額という部分は贈与税がかかる場合があるのですが、慰謝料という意味合いであれば、所得税第9条の非課税所得となり、結局奥様には課税されません。
    もちろん、贈与税を免れるための偽装離婚などの場合は、課税されますが。
    次にあなたの課税関係を見てみますと、確かに建物等を手放した方に課税されるというのは普通は納得できませんよね。
    実は、税務署から財産分与にあたって自分の土地家屋を別れた妻に渡した行為に対して、その分は慰謝料を現金の代わりに土地建物で払ったに過ぎないので、元夫が土地建物を譲渡したのと同じということで、元夫に対して譲渡所得申告漏れで更正処分された事例がありました。
    この処分について、納得がいかないその元夫は、税務訴訟を起こしましたが、結局、「最高裁第三小法廷昭和50年5月27日判決」により、税務署の処分は正当であるとして上告が却下され判決が確定しました。
    判決文の抜粋「最高裁第三小法廷昭和50年5月27日判決」
    「譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであるから…略…財産分与に関し右当事者の協議等が行われてその内容が具体的に確定され、これに従い金銭の支払い、不動産の譲渡等の分与が完了すれば、右財産分与の義務は消滅するが、この分与義務の消滅は、それ自体一つの経済的利益ということができる。
    したがつて、財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合、分与者は、これによつて、分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべきである。」

    この判決には、それはおかしいという意見もあり同様の訴訟がなされましたが、結局、財産を与えた側の課税という判決になっています。
    この判決を受けて、「財産分与はその分与をした時の時価で当該資産を譲渡したこととなる。」と所得税法基本通達33-1の4でその取扱いが示されています。
    ただ、あなたの借地権付建物にあなたが居住していた場合は、居住用財産の譲渡の特別控除(いわゆる3000万円控除)や軽減税率の適用があります。
    もちろん、あなたが別居をしていて3年以上その建物に居住していなかった場合は、居住用財産の譲渡の特別控除はありません。
    つまり、離婚協議をして、財産分与で土地(もしくは借地権)建物を元妻に渡す場合、あなたに譲渡所得が発生するが、その住居に3年以内居住していた事実があれば、居住用財産の譲渡の特別控除(3000万円控除)の適用があるということです。
    余談ですが、あなたと同様に別れた妻に「オレは、裸一貫でやり直す。お前には贈与税なんかがかかるだろうが、それは自分で払ってくれ」と告げて、先祖伝来の土地家屋全てを渡した方がいます。
    ちょうどバブルに向かう時代で、その元夫は、この財産分与で2億円余りの所得税等が課されることがわかり、慌てて妻に、その財産分与は、税法の知識がなかったため行ったので、無効だから登記を抹消してほしいという訴訟を行いました。
    税法の争いではなく錯誤無効の訴訟事例として、法律家の中では「裸一貫事件」などと呼んでいる者もいる有名な訴訟です。
    この訴訟の場合、元夫婦二人とも税法の知識がなく、二人に税法の知識があれば、こういう財産分与はしなかったでしょうという最高裁第一小法廷の判断が下り、錯誤無効の主張が通りました。
       

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