取得費が不明の場合、概算取得費(譲渡価額の5%)を用いて譲渡所得を計算するのが一般的ですが、概算取得費は、売却価額の5%しか取得費として 控除できないため、赤字であっても利益が出てしまいます。
ご質問のように、バブル期に建てられた東京の中央線沿線のマンションは、軒並み億ションといわれ、購入価額は、億を超えていましたが、 現在譲渡したらもう30年近く経過しているので、数千万円というところでしょう(例外があるかもしれませんが)。
しかし、バブル時の購入で明らかに赤字である場合には、実務においては、納税者からいくらで購入したかなどを聴き取り、実際にその当時の、通帳の資金の動きからその信ぴょう性を確認し、記憶の取得費で計上するという方法も取られているかと思います。
ただ、税理士としては,税務署からの調査がないことを祈るだけの神頼みでは心もとないと思います。
こういった場合、統計データとして公表されている「市街地価格指数」や「建築物単価」などの数値を用いて取得費を計算すると、当時の実額に近い取得費を推計計算できるという話があります。
取得金額を証明できるものがなくても、登記簿から取得時期を把握すれば、この方法で取得費を計算することができます。
これは、購入時の契約書などの証拠書類を有しない納税者がその購入当時の預金の引出額を購入費であると計上していた事案の税務調査において、税務署が、更正処分の際に、 「市場価格を反映した近似値の取得費が計算でき合理的」と主張し、国税不服審判所の裁決でも「合理性がある」と判断された取得費の計算方法です。この裁決があり、取得費が不明の場合でも取得費の推計に利用できると主張される先生がいます。
国税不服審判所の裁決(平成12年11月16日)では、契約書などの証明書類がなく取得価額が不明な場合は、取得費を推計せざるを得ないとして、次のように述べています。
……このような場合の土地・建物の取得費については、各種の計算方法が考えられるところ、原処分庁が採用した計算方法は、 建物の取得費については、統計的な数値である建築物単価を基に建築価格を算定し、その価額から譲渡時までの減価償却費相当額を 控除しているものであり、実勢価額の近似値と認められる時価相当額を推定していること、また宅地の取得費については、本件物件 の譲渡価額の総額から実勢価額の近似値と認められる当該建物の取得費を差し引いた額に、市街地価格指数(住宅地)の譲渡時に対 する取得時の当該価格指数の割合を乗じて時価相当額を推定しているから、いずれも合理性があり、当審判所においても、これを不相当とする理由は認められない。
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市街地価格指数を用いて取得費を計算する方法は、前述したバブルのころに高値で購入した土地等(借地権も含みます)を売ったときなどに有効です。
具体的に検討してみましょう。
〇 市街地価格指数と売却価額から取得費を計算する方法
例えば、1991年に購入した土地を2014年に5,000万円で売ったとします。
取得時と売却時の仲介手数料など諸費用は計算の簡略化のため無視して説明します。
市街地価格指数は六大都市の住宅地の指数を使ってみます。
該当する年の市街地価格指数を抜粋すると、次の表のとおりです。
年 | 市街地価格指数(住宅地..六大都市) |
1991年 |
223.4 |
2014年 |
77.1 |
※「市街地価格指数」より抜粋。2000年3月末=100
土地の取得費を市街地価格指数を用いて計算すると、
50,000,000 ×(223.4/77.1)= 144,876,783
取得費は、1億4,487万円となります。売却価額が5,000万円ですから、売却損が生じ、税金はかかりません。
概算取得費で計算した場合は売却価額の5%しか認められませんので取得費は250万円で、4,750万円が譲渡益として課税対象となります。
本来明らかに赤字なのに課税されてしまうことになります。
ただし、この方法を採用することができるのは、市街地価格指数が分かる大都市圏で、あくまでも取得費がわからないケースで、取得先が存在し取得先に契約書が保存されているなど、推計する必要がない場合は、この計算方法は利用できません。
また、当時の購入時の預金の引き出しが分かるものや不動産の広告など客観的な資料が多い方が、税務署に認められ安いと思われます。